イケメン大奥
キヨが声に出して言ったあと、目の前のセイロンティーをぐっと飲み干す。
「その日の取締役、大奥の代表が、御帰宅なさる上様のお召し物を回収し、帰られるまで付き添います」
レイの説明に、ランが涙ぐんだ。
「良い上様のときは、淋しくて嫌ですね」
レンがランの頭を隣から撫でている。
この大奥は選ばれた者が上様を務める。でも長くは居られず、1日のみ、また選ばれるかは分からない。それは永遠の別れかもしれないのだ。
どう。2度目に来られた事自体、奇跡なんだ。キヨの手助けがなければ、起こりえなかった事なのかもしれない。
もっと、あたし、皆のためになること、しておけば良かった。
「上様は、真に心のお優しい、純粋な方ですので、私どももお別れするのは切ないですね」
ハルが深々と礼をして言った。この人ともお別れなんだな……。
「まだ時間はあるのでしょう?」
ランがレイに尋ねる。涙目のままで、あたしは胸が締め付けられる。大きな茶色い目に涙が溜まっていて、今にもこぼれてしまいそう。
レイはランにハンカチを差し出しながら、低い声で告げた。
「残念ながら、時間はあまりありません。お茶の後、準備をしなければ」