イケメン大奥
『あや姫が向こうの世界に着いたとき、ハルは後片付けをするのさ』
キヨの声が、ハルについてダイレクトに教えてくれる。
そうなんだ。表使の仕事は色々あるんだね。あたしがリアルに帰っても矛盾しないように調整するのかな。
『表使は、優秀でなくては出来ない仕事だ。御年寄よりも実権があるかもしれない』
上様よりも?
『実際に表とこの大奥とを必要ならば自由に行き来できるからな。上様のほうがずっと位は上だけれど、細々な雑用を含めて表使は多くの事を知っている』
あたしはゆっくりと歩みを進める。
でも、あたしはもうすぐ大奥とはお別れだから。沢山の事を知っても、ここに戻ってこれるか分からないのだから。
静かに歩みを進めて、階段を上がり、ある部屋に通される。
そこには天蓋(テンガイ)付のベッドがあり、あたしはその横に置かれたソファーに腰を下ろす。
ドアの所で、ランとレン、そして引っ張られるようにキヨが出ていく。
「ぼくたちは、ここまでなのです。上様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
『あや姫、じゃあな』
ドアの向こうに消えていく姿を見たら、
いよいよ大奥を去らなければいけない時が迫っているのを実感して、鼻の奥がツンとする。去りがたい。先日は眠っている間に戻っていたから、こんな淋しさを感じることがなかった。
「上様」
レイがあたしの足元にひれ伏して、ミュールを脱がせる。
「これからここを去るために、全てをお脱ぎいただきます」