イケメン大奥
マサのマークは続いた。モップで床掃除をしている間も、オランウータンのような巨体を揺らしながら何かと呼びつける。
「マサさんに、えらく気に入られたね」
小声で傍で掃除をしている者に言われても、ちっとも嬉しくない。それどころか、身の危険を感じる。じっとりと首筋に視線を感じたときには、首に食らいつかれるかと思ったくらいだ。
ようやく汗を拭きつつ掃除を終えると、今度はテーブルのセッティング。あたしたちの食事の準備をするらしい。
お目見え以下の者たちで、時間差で詰所で食事を済ませるのだそう。
なんか、完全に労働者。大きな邸宅お抱えの召使いに位があるようなものだ。長机を並べて、随時食事をいただく。調理場からまかない食を運んできて、給食のようにそれぞれがセルフで皿に取っていく。
おかずの中には驚きの食材があったりもする。
「今日はキャビアが余ったから、まかないに下げられたぞ」
そんな口コミに皆が我先にとキャビアを味わおうとする。勿論、マサが怖い顔をして前かがみで走っていき誰よりも先に皿に取る。
「あの人さぁ、下っ端の台所仕事や拭き掃除などする者たちのボスだから」
てんこ盛りにご飯の上に積まれたキャビアを大きな口で食べるマサ。
それにしても、上はいい物食べているということは、その余りが下へ流れてくるということなんだ。
上様は下々のことを考えたら、佃煮にご飯でいいよ、なんて言えないね。
「上様によると、入手困難な食べ物を頼まれる人もいて、そういうときは困るんだよな、そういうもん、下々には回ってこない上に表使あたりが入手に走り回らされるからさ」
「たとえば、どんな食べ物を頼まれたの?」
「熊の手」
熊!? 熊の手なんて気持ち悪い。