イケメン大奥
どきどきします。何だか、せっかくのふかひれが何処に入っていくのか、食べていても分かんないくらい、胸騒ぎが、する。
『わたくしも、初めての事で胸騒ぎが致しますが、成功をお祈りいたしております』
ぷつっと音がしたわけでもないけれども。
脳内との交流が途切れてしまった。
「どうした、結月。食欲ないのか?」
マサの太いドスのきいた声に、急いでご飯をかきこむ。
この食事が終わったら、奥の階段を上がり、レイの部屋へ行く。
簡単な事のように思えて、難しいのかもしれない。第一、堂々と『行ってきます』なんて言えないもんね。レイって大奥の上様の次のお偉いさんなんでしょう?
あたしが普通に訪ねていって会える相手じゃないんだよね……。
皆が寝静まって行くしかない。
手首の包帯の下は手当のおかげか、腫れが少し引いてきた気がする。ローストビーフの残りを食べて、ふかひれの姿煮を食べてしまってから、席を立つ。
何だか落ち着かないのだ……。
そもそも大奥には窓がない。息が詰まりそうだ。
「もう、ご馳走様か? おれ、残りもらってもいい?」
ゴリラならぬオランウータン、マサが太い手を伸ばして、あたしの残り物をゲットした。
どうぞどうぞ。
あたしの意識はもう、食事には向いていない。
これから始めないとならない、レイの部屋へ目立たないようひっそりと行く事で頭がいっぱいだったのだ。