イケメン大奥
8.レイ
皆が就寝・休息のために休んでいる時……、
あたしは、ゆっくりと詰所の出入り口のドアを開けた。
冷たい板の廊下を忍び足で歩く。結局、皆が静まり寝息を立て始めるその時を待つのは、ずいぶんと時が過ぎた気がする。
大奥には時計がないし、窓はないし、リアルな世界のような時間の感覚が狂ってくる。
それなりに規則正しく、起きて働いて食事をとり、就寝する。そのパターンを繰り返しているようだから、べつに時計など必要ないのかもしれない。
冷えた廊下の寒さが足先を凍えさせる。
ルームシューズを履いてはいるんだけれども、薄っぺらくて寒い。これが下々の情けなさ、なのか。
ハルが言った通り、詰所を出てまっすぐ歩くと奥に階段があった。
廊下の先から、小さな明かりが揺らめいて近づいてくる。
見回りだろうか、
階段を四つん這いで急いで駆け上がる。
情けないけれど、猫みたいに足音を立てずに上の階にたどり着く。上の階の廊下は絨毯がしかれていて、ほっとする。
これで足音は響かない。続けて、あたしは上の階に向かう。絨毯はますます毛先が長くなり、ほわほわになってきた。
薄いルームスリッパでも足が冷えない。もしかしたら床暖房が入っているのかも、なんて思っている鼻先に、
茶色いドアがあった。
廊下に誰も居ないことを確認して、ドアをノックする。
ノックに返事はなく、
ドアが開いて、あたしは中に引きこまれた。