イケメン大奥
「そのおじさんの名は?」
「『律(リツ)』と申します」
リツ。素敵な実直そうなお名前。
お願い、リツさん。表使のリツさん、答えて。
あたしのこの声を察知したならば、心を開いて。
沢山の雑音の中から。
多くの音の響きの内から、
表使のリツさん、どうか教えてください。
駄目かも……、
ランの勧めてくれるアップルティーに励まされながら、
埃が積もった床に座り込んでしまう。
「あ、ドレスが」
ランの声に飛び上がる。
裾の蘭の白い刺繍が黒く汚れてしまった。
ランお得意の洗剤で汚れの応急処置をする。
なんてダメな上様なんだろう、あたし。
『自信もて。上様として厳しく明瞭に語りかけて』
キヨは手を動かしながらも、メッセージを送ってくれる。
分かった。
面白くなさそうな顔のレイの前で、目を閉じる。
集中するんだ。