イケメン大奥
今まで、そんなことは一度もなかったのに。
あたしの前に現れたのは、先ほどサンマを買って行ったはずの、彼。
「買い忘れたものがあって」
照れたような彼の笑顔は後光が差して見える。
ええ、どうぞどうぞ。
あたしは背筋を伸ばして、彼の傍らに立つ。
「やっぱりブリも買っておこうと思って」
「ご自分で料理されるんですか?」
「ええ。ひとり暮らしなもので」
そうなんだ。あたしは、頭の中のノートにしっかり書き込んだ。
ふと彼の左手の薬指をチェックする。
指輪なし。
ヨシ。『可』。いえ、『優』か。
でもまだ油断できない。彼女がいたりして。
ちらりとブリを選ぶ彼の横顔を見つめる。