イケメン大奥
アパートの1室に、たどりついて、部屋に飛び込むなり机の前に座る。
いつもなら、すぐにテレビのスイッチを習慣で入れてしまう。
けれど今日はそんなことをして、キヨの声を聞き逃すわけにいかない。
目を閉じて、小さなコタツ机の前に座って、キヨを呼ぶ。
『お、ちょっと待て』
キヨのあわてたような声が頭に響いた。
何? どうしたの?
慌てて、オタオタしてしまう、あたし。
『……上様がお帰りになる』
ということは。
次の上様となる、チャンスだよね?
あたしは思わず正座して、両手をぎゅっと合わせて祈る。
どうか、どうか、今度はあたしが「上様」になれますように。
『上様になったら、俺を御年寄(オトシヨリ)以上に必ずしてくれよ』
キヨをどの位にするかよりも、まず、
今は上様になれることを祈るのみ。
キヨ、広告が出る時を教えてね。
『いや、どのタイミングで広告が出るのか分からない』
そんなぁ……。
『俺に出来る範囲で探って連絡する』
その言葉とともに、頭の中にキヨの気配が消えた。