イケメン大奥
5.蝶よ花よ
呉服の間は広間のすぐ裏側にあった。控えの間と逆の方向に廊下を進んでいき、ぐるっと広間の反対側に回り込むように廊下が続いている。その奥に回転ドアがあった。
「呉服の間に勤務する者は、裁縫道具やら材料やらで両手が塞がることが多いので、回転ドアになっているんです」
ドアが回る速度に合わせて入ると、そこには数人の少年が裁縫をしていた。
あたしの姿を見て、少年たちは、すぐに部屋の隅に移動して頭を低く下げている。作業の手が止まるのが可哀想で、続けるように言った。
ランもフォローをしてくれる。
「上様は今日のドレスを気に入られて、制作風景を見たいとおっしゃられて来たのです」
中には怯えている者がいて、過去に来た上様に、厳しく叱られたり咎められた者がいるのかもしれない。フレンドリーな感じでドレスをつまみ、プリマドンナのようにバレー風の挨拶をして見せたら、何人かは笑顔を見せてくれた。
あたしたちは部屋の奥にあるクローゼットへ向かう。
クローゼットの脇には小さな引き出しが沢山ある薬棚かと思うような棚がある。引き出しの中が見えるように透明な引き出しだ。
「こちらは、ぼくの収集したビーズ、あちらはランの刺繍糸が色ごとに収納されているんだ」
レンが収集したビーズにはガラスパールもあって、繋げたら長くて綺麗なネックレスが沢山出来そう。また、ランは刺繍の達人とあって、細やかな色の違いを出すために、半端でない色揃えをしている。
「クロスステッチで模様を描くときには、大量に刺繍糸が必要なの」
「ぼくのビーズを刺繍に縫い込むとキラキラ感があって、個性的なドレスになるんだ。手作業で少しずつ糸で止めていくから、時間がかかるけどね」
可愛いくるみボタンや貝ボタン、天然石のボタンがごろごろ引き出しに入っているのを眺めるのは愉しい。
わくわくして珍しい蝶や蘭の花のボタンをつまんで見つめていると、ランもうれしそうだ。
「上様もボタンがお好きなんですか?」
「うん。見ているだけで可愛くてうっとりしちゃうのよね」