イケメン大奥
クローゼットの一番手前には、作成中のワンピースやドレス、上着がかけてある。幾つかに、刺繍やパールビーズを縫い付けていくのだそう。
「このレモン色のワンピースに刺繍が入ると、どうなるんだろう?」
あたしの素朴な疑問に、刺繍デザインを持ってきてランが説明してくれる。
「橙色や紅色で、秋の紅葉を刺繍しようと思っていうんです」
レモン色が爽やかな色なので、秋口に着られる大人っぽい季節感を感じさせるワンピースにしたい、と夢見るようにランが話した。
「秋にいらした上様のお召し物として着ていただきたくて、今、頑張って図案を作っているところです」
「図案づくりも、ランがするの?」
「はい。レンに手伝ってもらいながらオリジナルの図案を作るのです」
レモン色のシンプルな中にもみじの刺繍。日本画のような繊細な図柄にしたいとランは目を輝かして話してくれる。
「レン、手伝ってね」
「うん、ランと一緒にいられることが、ボクの喜びだから」
ふたりは仲がいい。ぴったりくっついていると子猫が2匹戯れているように見える。
あたしはランの髪に触れた。柔らかくて、ほわほわとした手触り。
「上様、また来られるといいですね……」
髪に触れながら、ランの小さなつぶやきを聞く。
レンはそんなあたしたちに寄り添って話を聞いている。