シンクロニシティー


 人選びは慎重にやらなければ。
 前回の失敗から学んだ。


 駅の出入り口の端っこに、ずぶ濡れのまま立っていた。

 ナンパは当然無視。

 今の私に必要なのは、陰鬱な気持ちを吹き飛ばしてくれる遊び相手ではなく、

 お金だ。


「君、今暇?」

 左すぐ後から、私の頭の上に落とされた言葉。
 振り返るようにして見上げれば、見知らぬ男が嫌味のない微笑を私に向けていた。

「うん」

 と答え、その男の全身にさり気なく視線を走らせ、隈なくチェックする。

 年齢40代のどこか、高級そうなパリッとしたスーツ、容姿も中よりは少し上。


 必要十分条件を全て満たしている。
 決めた、この男に。


「家出したんだけど、お金がなくて」

 自分の口から出た甘ったるい声に、気持ち悪くて寒気すらした。

「そっか、そういうことなら……
 おじさんが相談にのろうか?
 君、可愛いし」

 男は、そう言って、とても愛想良く微笑んだ。


 
< 19 / 296 >

この作品をシェア

pagetop