シンクロニシティー


「じゃあ、場所変えようか」

 と、馴れ馴れしく肩に回された手が酷く不快だった。

 やっぱり今回も無理かも。
 そんな不安がフッと脳裏をよぎる。


 どうして私は、未だに『心』を捨てられないのだろう。

 いらないのに、
 いらないのに、『心』なんか。


「いくら欲しいの?」

「いくらならくれる?」

 とびきりの『作り笑顔』で見上げたつもり。
 けれど、顔が痛いほどに突っ張って。


「怖いの?
 君、こういうこと、初めて?」

 男の無遠慮な問いに、自分の商業用スマイルは失敗しているのだと悟った。


「僕が買う」

 聞き覚えのない若い男の声。
 それは背後からふわり、と掛けられた。

 けれど、私たちを振り向かせるには十分なボリュームだった。


 いつから見ていたのだろう。
 事情は全て把握している、とでも言いたげな……
 その顔は、どこか自信に満ちているように映る。


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