シンクロニシティー


 男の声は、私の耳も確かに拾った。

 けれど、彼は全く聞こえなかったかのように振る舞う。
 それどころか、男の存在自体を無視している。


 澄んだ湖のような、チラチラと光を反射して輝く濡れたブラウンの瞳は、

 真っ直ぐ、私だけに向けられていた。


 吸い込まれそうだ。
 抗えない。


 その時、私の思考は停止していたのだと思う。
 時間さえ止まっていたのではないだろうか。

 過去も、未来も、現在も、そんなものは存在しない、時空を超えた空間に二人きり。
 そんな錯覚に陥り、夢心地だった。


 私が、私ではなく、
 彼もまた、彼ではなく……



 気付けば私は、差し出された彼の手に、自分の左手を重ねていた。



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