シンクロニシティー
「行こう」
柔らかい笑みを浮かべてもう一度言うと、彼は私の手を引き歩き始めた。
「ちょっと待てって」
私の右肩に男の左手が触れた瞬間、反射的に払い除けていた。
と同時に、背後の男を振り返って見上げた。
呆けた顔で私を見下ろす男に向かって、
「私にだって、相手を選ぶ権利ぐらいあるはずでしょ?」
私らしくない主張を口にした。
それは、男に対しての言葉だったのか。
それとも自分に対しての……
握られた左手がとても心地良くて。
嫌なものは嫌だ、と。
つい、人間らしい負の感情を剥き出しにしてしまった。
「走れる?」
耳元で彼が囁いた。
さわやかな春風のように、彼の吐息がそっと私の耳を撫で、胸が高鳴った。
火照ってしまった顔を上げて、彼を見た。
温かく私を包み込むように注がれる、日だまりのような眼差しに、全身がさらに激しく脈をうつ。
生きているんだ、私。
この時、自分の息吹を確かに感じた。