シンクロニシティー


 ゲイ、芸、鯨(ゲイ)――

 ――ゲイ?


 その言葉の意味を把握するのにかなりの時間を要した。


 なんだ、そっか。

 酷くがっかりしている自分に驚いた。
 一体何を期待していたのだ。
 おこがましいことこの上ない。

 と同時に、身体の緊張が一気にほぐれた。
 ホッとしている自分がいる。

 そういう意味では、『心配しなくていいよ』という彼の言葉は、あながちに的外れとも言い切れない。


「いくら真夏だからって、
 いつまでもそんな恰好でいたら風邪ひくよ?」

 しびれを切らしたのか、彼が苦笑しながら言った。
 それによって、ハッと我に返る。

 突然に。
 現実世界に引き戻された気がした。

 と同時に、『買ってもらわなくては困る、私にはお金が必要なのだ』という想いが湧き上がる。

 つい先ほどまで、彼が女性に対して関心がないことを残念に想いつつも、その一方で安堵していたくせに。


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