君を忘れない。
一、桜月。
―――それは、月の綺麗な桜月の夜でした。
「おめでとうございます。」
なんの前触れもなく玄関先にやって来たその人は、赤い紙を渡しながら、無表情にそう言う。
ちっともおめでたくなんかないのに。
「ちょっと喜代(きよ)…?!どこいくの?!」
私は家を飛び出した。
走って走ってたどり着いたのは、桜の木が立ち並ぶ小さな小さな公園。
遊具はない。
ただただベンチがポツンと置いてあるだけの、公園と言うよりは空き地とでも言うような、そんな場所。
桜の木の下にしゃがみ込み、私は泣いていた。
涙が止まらなくて、どうしようもなくて。
私は泣いていた。
そんな、春の夜でした。
あなたが私を見つけたのは。
「おい、大丈夫か…?!」
ガシャンッという、なにかが倒れる音と人の気配に、私は顔を上げた。
「どこか具合でも…」
そう言いながら近付いてきたのは、私よりいくつか歳上に見える、男の人。
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