君を忘れない。
――――数日後。
お兄ちゃんが通っていた大学から、荷物を取りに来てほしいとの便りが届いた。
どうやら卒業する際に、整理しなかったみたいだ。
「まったく、困った子だよ。」
お母さんは吐息混じりにそう言う。
しっかり者で、成績も優秀なお兄ちゃんだけど、片付けだけはいつも出来ない。
“誰にでも欠点はあるものだ”と、指摘されるたびに言い返していたのを思い出す。
「お母さん、私が取りに行ってきます。」
「大丈夫かい?」
「平気。」
見てみたいと思った。
お兄ちゃんが学んだ場所。
私は大学にまで行かなかったから、少し興味があった。
当時、大学にまで進学できたのは、全体のほんの一部。
まさに、社会的エリートだけが行ける世界。
一方学生は、24歳まで徴兵を免れることができた為、一般社会からは羨望や嫉妬の目で見られていた。
学生の間は、戦争に行かずにすんだのだ。
しかし、悪化する戦局に戦死者は増加。
兵隊を補う為、多くの国民が徴兵され始めた。