君を忘れない。
バッチリと目と目が合う。
「……あ。」
泣き顔の私を見て、学生服をきたその人は罰が悪そうな顔をした。
まだ若いその顔は、気まずそうに目を逸らした。
「だ、大丈夫です…!その…具合悪いとか、そういうのじゃないので!」
私は慌てて立ち上がり、元気であることを主張する。
するとその人は、
「…邪魔してすまない。」
どこか恥ずかしそうに、ぶっきらぼうに謝罪する。
「いえ…こちらこそ、すみませんでした。」
私がそう言うと、その人は私に背を向けて歩き出す。
そして、タイヤが空回りしている、倒れた自転車を起こした。
自転車を投げ捨てて来るほど、私のことを心配してくれたのだろうか。
そのまま立ち去るのかと思いきや、その人は再び私の元へと近付いてきた。
「出したいだけ出してから、これで拭うといい。」
自転車の籠に積んであった鞄から、ハンカチを取り出すと私に差し出してくれた。