君を忘れない。
三、桜色。
満開だった桜は儚く散り、緑の葉が枝を覆う季節。
セミの声が、絶え間なく聞こえていた。
今年は厳しい夏になるだろう。
誰かがそんなことを言っていた。
それでも木陰に入ると、気持ちのいい風が髪をなでる。
だけど隣にいる雨竜さんは、眉間にシワを寄せ、いつも以上に不機嫌そうに歩いている。
首筋には、汗が流れていた。
それが少しだけ、私の胸の鼓動を速くさせた。
「今日も暑いですね。」
私は目を細め、木々の間から見える太陽を見上げた。
「そうだな。」
雨竜さんは、セミの声に鬱陶しそうな顔をしていた。
お兄ちゃんの荷物を片付け始めてから、時は流れた。
私が週に一度のペースで大学に通うようになってから、二ヶ月がたとうとしていた。
雨竜さんはあれ以来、よく私を手伝って、家まで荷物を一緒に運んでくれている。
今日もまた、お兄ちゃんの荷物を家まで運んでもらっていた。
ありがたい気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。