君を忘れない。



「桜色…」

「あの日、桜並木の中に君がいた。」



私も、“あの日”のことは今でもしっかりと覚えている。



「夜風に舞う花弁と、泣いていた君の頬が、月明かりに照らされて同じ色をしていた。」



あぁ、だから桜色。



一平さんには、そう見えていたのだ。



「思わず、立ち止まってしまった。」

「お恥ずかしいところを、お見せしました…」



兄に赤紙が届いたあの日。



少しだけ。



私は実感したのだ。



この世界のどこかで、戦争が行われているという現実。



近くにいた人がいなくなるということは、そう実感せざるはを得ないことなのだった。



「俺は、綺麗だと思ったんだ。」



真っ直ぐに私の目を捕らえ、そんなことを言われると、もうどうしていいのか分からなくなる。



熱った体、体全身が心臓になったように波打つ。



紅潮して俯く私を見て、一平さんは薄く笑みを溢す。



「…こういうのは、恋慕う者に言われてこそ、意味があるというものだ。忘れてくれ。今のは俺の、個人的な意見だ。」



……え。


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