君を忘れない。
聞き違いかと思い、私は顔をあげる。
だって、そうでしょう?
「一平さ…」
「ほら、早く帰ろう。」
一平さんは私から視線を逸らし、私の言葉の上から言葉を被せた。
これ以上、なにも言わせてはくれないように。
そして私に背を向け、一人スタスタと先を歩いて行く。
「一平さん、待ってください。私は…私の恋慕う方なんて、すでに決まって…んう!?」
歩く足を止めた一平さんは、振り返るなり私の口を手で覆った。
「…それ以上、言うな。」
本気の瞳だった。
一瞬にして、私を凍りつかせた。
背筋がゾクッとして、動けなかった。
目を反らすことも、手を払いのけることも、なにか言い返すことすら許されない。
そんな瞳だった。
私の瞳からは、一粒の涙がこぼれ落ちた。
一平さんは、まるでそれを見て見ぬふりするかのように再び私に背を向け、歩き出した 。