君を忘れない。
「いらっしゃい、喜代ちゃん。」
「こんにちは。」
一週間後。
私は研究室へと来ていた。
「今日は早いんだね。アイツなら、まだ講義中だと思うけど、待ってる?」
ここの教授である松原先生とは、毎週のように顔を合わすうちに、仲良くなった。
軽口がきける、30歳くらいだと思われる男の人。
いつも羽織っているのは、真っ白な白衣。
その下には、丁寧にアイロンがけされているシャツ。
会うたび変わるネクタイ。
その身成から、彼の家の階級が伺えた。
「いえ。今日は一人で帰ります。」
「え?」
驚いた表情をする松原先生。
「もう残りの荷物も少ないです。私一人で十分です。」
私は先生から視線を逸らして言った。
「もともと一人でやらなければならないところを、一平さんが手伝ってくれたのですから。」
「…そっか。」
松原先生は、なにか言いたそうだったけれど、私はそれに気づかないフリをした。