君を忘れない。
そして、残りわずかとなった荷物を、用意した風呂敷に入れていく。
ここに来るのも、あと少しとなった。
松原先生に会えなくなると思うと、少し寂しい。
だけどそれ以上に、私の心を支配しているものがある。
「今日は暑いし、喉がかわいただろう?お茶でも淹れるから、少し休んで行くといいよ。」
「いえ、でも…」
「最後の授業が終わるまで、あと一時間以上もあるから、大丈夫だよ。」
松原先生は、私に優しく笑いかけた。
「あ…」
なにも言ってはいないのに、先生は分かっている。
私が今、一平さんと会うことを避けているのだと、ちゃんと分かってくれている。
「…いただきます。」
「座って待っていて。」
私の返事を聞くと、松原先生は満足そうに微笑んだ。
私は、兄の机であった場所に腰かけた。
散乱していた資料などは、以前に比べてすっかり片付いていた。
それでもまだ、本の山がいくつか残っている。
その影に隠れるように、ひっそりと置かれている写真たてに気付いた。
太めの木枠で、埃かぶった写真たての中に飾られていたのは、家族写真。
そこにいるのは間違いなく、幼い私と兄だった。