君を忘れない。



それと両親。



和服のお母さんが椅子に座っていて、その後ろにお父さんが立っている。



「………。」



元気でやっているだろうか。



ふと、戦争へ行ってしまった兄のことを思い出す。



「それね、朝宮がわざと置いていったんだよ。」



グラスを両手に持った松原先生が、私の手元にある写真立てを見て言った。



「わざと…?」

「そう。家族に戦火を浴びせるわけにはいかないって。その為に俺は行くんだって言ってね。」

「そうだったんですか。」

「写真くらい、持っていきなよって言ったんだけど、敵を見るのは俺だけで十分だって、きかないんだよ。」



兄らしい。



そう思った。



家族思いで優しくて、それなのに自分で決めたことは、周りが何て言おうと曲げなくて。



いつだって自分のことは、二の次で。



だからお願い。



どうか無事でいて。



生きて、再び会うその日まで。




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