君を忘れない。
「…雨竜になにか言われたのかい?」
「え?」
自然な流れで、それでも私の目をしっかりと見ながら、松原先生は私に尋ねる。
「アイツはすぐに、自分の感情を殺すから、なにが本心か分かりづらいんだ。」
感情を殺す…。
それはなんとなく、私も思っていたことだった。
けれど、あの時の言葉はきっと、本心だったに違いない。
「…一平さんは私の想いに、それ以上申すな、と言いました。それは、慕うことさえ迷惑だったからじゃないでしょうか。」
私がそう言うと、松原先生はグラスに入ったアイスコーヒーを口に含んだ。
私には、氷の入ったお茶を出してくれていた。
「そうとも限らないよ。思った通りの事なんて中々言わない男だからね。」
そうだとしたら、どれが本当で、どれが嘘だったのだろうか。
綺麗だと言った言葉。
私を凍りつかせた瞳。
なにが本当だったのか。
なんの為の嘘だったのか。
いくら考えても、私には分からなかった。