君を忘れない。
「しかしもう、一平さんに頼る訳にもいきません。もし一平さんが来たら、そうお伝えください。」
私は丁寧に頭を下げた。
「…分かった。そう伝えておくよ。」
松原先生が了解してくれてほっとした。
自分で言うのは、少し躊躇われるからだ。
私はグラスを手に持ち、お茶を一口飲んだ。
甘い味が口の中に広がり、最後にほんのりと苦味が残る。
てっきり日本茶だと思っていた私は、想像とはかけ離れた味に、思わずグラスを置いた。
「口に合わなかったかい?」
「いえ…。これはなんですか?」
「teaって言うんだ。」
「てぃ…?」
「英国のお茶だよ。」
「英国…!」
「戦前に訪れたとき、購入したんだ。」
“てぃ”と呼ばれるそれは、 とても香りがよく、ほどよい甘さと苦さだった。
「戦争なんて、早く終わればいいのにねぇ。」
今の英国は、日本の敵である。
アメリカの働きかけによって、日英同盟は破棄された。
米英を敵に回した日本に、勝ち目はあるのか。
もしかしたら、初めから無いのかもしれない。
「次にこの国に平和が訪れるのは、いつになるでしょうか。」