君を忘れない。
勝ち目のない戦争に、なぜ日本は踏み切ったのだろうか。
こんなにもの大きな犠牲を払ってまで、手にいれたいものはなんなのか。
「ご馳走さまでした。では、今日はもう帰ります。」
「本当に会わなくていいのかい?」
「はい。会わない方がいいんです。」
これは私の勝手かもしれないが、私の胸がこれ以上苦しくなる前に、会わなくなる方がいい。
もう関係ないと言い聞かせ、忘れるべきなのである。
「…喜代ちゃん。」
松原先生は、少し低い声で私の名を呼んだ。
「こんな世の中だ。いつ誰がいなくなってもおかしくない。だから、これだけは覚えていて。」
「はい、なんでしょう。」
いつになく真剣な松原先生。
「伝えたいことは、会えるうちに伝えておくのがいい。当たり前の事なんて、一つとしてないのだから。」
静かな研究室には、外から聞こえてくる蝉の鳴き声だけが、遠くから入ってきていた。
開けた窓から吹き込む僅かな風が、水色のカーテンを静かに揺らしていた。
グラスの中の氷が、カランと音を立てて、徐々に溶け始めている。