君を忘れない。
四、桜恋。
―――1944年11月24日。
東京が空襲された。
戦火が、非戦闘員を無差別に襲った。
これを機に、日本は空襲列島と化していく。
アメリカ軍は、主に工業的、戦略的な目標を破壊することとしていた。
しかし本当の目的は一般市民にあり、無差別に爆撃することで、日本の戦意喪失を狙っていたのだ。
私の家は、幸いにもそこまでの被害はなかった。
気掛かりだったのは、一平さんだった。
夏以降会ってはいない。
無事かどうか、知りたい。
気づいた時にはもう、私は家を飛び出した。
だけど走りながら気がついた事がある。
いつも私の家まで一緒に帰ってくれていた。
私は、一平さんの家を知らないのだ。
分かっているのは、あの桜並木までの道だけ。
そこから先は、全く見当もつかない。
それでも私は、じっとなんてしていられなかった。
しかし次の瞬間、私の足は桜の木の下でピタリと止まる。