君を忘れない。



泣き止まない私に、どうしていいのか分からず、だけどその人は立ち去ろうとはしなかった。



「赤紙…です。」



もう二度と会うことも、話すこともないこの人に、私は泣いてる理由を口にした。



この人なら、黙って聞いてくれる気がした。



私の幼稚な考えを、否定しないでいてくれるような気がした。



「赤紙か…」

「召集令状が、来たのです。…兄が、戦争に行くことになりました。」



軍隊への召集令状。



頭には、紙を渡しに来た無表情の顔が浮かぶ。



お国の為にだなんて、分からない。



本当におめでたいことなの?



「…立派だ。」



彼は桜を見上げながら、呟くようにそう言った。



「…はい。」



分かってるよ。



でも、家族が行ってしまう。



ずっと一緒だったお兄ちゃんが、遥か遠く戦場に。




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