君を忘れない。
この人は、兄より1つか2つ下くらいだろうか。
勘違いとはいえ、とても親切な方だけど、長身のせいか、目の前に立つだけで少し怖い。
兄よりも背が高く、兄よりも声が低い。
「それは返さなくていいから、早く家に帰れ。家の者も心配するだろう。」
無愛想にそう言うと、彼は自転車に股がる。
そして最後に、
「…君の兄の、武運を祈る。」
そう言い残して、去っていった。
彼が去ったあとには、桜の花びらが風にヒラヒラと舞っていた。
私の涙は、すでに止まっていた。