君を忘れない。
「一平さんは、居なくなったりしませんよね?」
兄のように。
紙切れ一枚で、突然戦争になんて行ったりしない。
「喜代。」
名前を呼ばれて顔をあげると、一平さんが私を真っ直ぐに見つめていた。
暗闇に目が慣れて、私も一平さんの目を見つめ返す。
そっと私の頬に手を添えて、ゆっくりと一平さんの顔が近付いた。
そして私たちの唇は重なった。
「………。」
一平さんは医学生だから、私の前から居なくなったりはしないと。
するはずがないと。
医学部は、召集令の対象外だったからだ。
“居なくなったりしませんよね?”
頷いてほしくて、口から出た台詞。
だけど、一平さんからの返事はなかった。