君を忘れない。



「一平さんは、居なくなったりしませんよね?」



兄のように。



紙切れ一枚で、突然戦争になんて行ったりしない。



「喜代。」



名前を呼ばれて顔をあげると、一平さんが私を真っ直ぐに見つめていた。



暗闇に目が慣れて、私も一平さんの目を見つめ返す。



そっと私の頬に手を添えて、ゆっくりと一平さんの顔が近付いた。



そして私たちの唇は重なった。



「………。」



一平さんは医学生だから、私の前から居なくなったりはしないと。



するはずがないと。



医学部は、召集令の対象外だったからだ。



“居なくなったりしませんよね?”



頷いてほしくて、口から出た台詞。



だけど、一平さんからの返事はなかった。



< 52 / 75 >

この作品をシェア

pagetop