君を忘れない。
私を置いて、明日には戦争へと征ってしまう貴方。
還ってくる補償は、ない。
学徒出陣と言えば、特攻隊。
特攻隊といえば、十死零生。
還らない可能性の方が、遥かに高い。
「すまない。」
一平さんは、繰り返した。
私は涙を拭いた。
「私達、出会わない方がよかったのかもしれません。」
恋なんて、しない方がよかったのかもしれない。
好きにならなければ、こんな思いはしなくてすんだのかもしれない。
「私のことは、どうか今度こそお忘れ下さい。」
「おい喜代。」
「戦地でのご活躍と後武運を、御祈りしています。」
「喜代…!」
一平さんが、少し声を張った。
私は一平さんに背を向けて、歩き出そうとしていた。
だけどその手を、一平さんに掴まれた。
「待て喜代!」
「嫌です。」
「こんな別れ方は、よくない。」
「一平さんは、待ってはくれません。」