君を忘れない。



私がいくら願っても、すがっても。



「人を殺そうとしているその手で、私に触らないで下さい…!」



嘘を…つきました。



最愛の貴方に、最後に嘘をつきました。



本当は、もっと触れていたい。



触れていてほしい。



そう、心が叫んでいるのに。



「一平さん、さよならです。」



振り返らずに、一平さんの手を振り払った。



心が痛くて、涙が止まらなかった。



ここで貴方と出会い。



ここで貴方に、さよならを告げた。



ずっと見ていたのは、一年前と変わらず美しい桜だけ。



私たち、出会ったのは間違いだったでしょうか。



「喜代、ちょっといい?」



家に帰った私は、部屋に閉じこもって泣いていた。



そんな私を見て、お母さんが部屋の戸を叩いた。



< 58 / 75 >

この作品をシェア

pagetop