君を忘れない。
小さく返事をすると、お母さんは部屋に入ってきて、私の隣に腰を下ろした。
「彼、征っちゃうのね?」
お母さんは、軍服姿の一平さんと泣き崩れる私を見て、全てを察していた。
「立派なことなのよ?」
そんなことは、分かってる。
「だけど、もう一平さんは還らない…。」
「彼にはなんて?」
還らない貴方に。
もう二度と会えないかもしれない貴方に。
私は最低な言葉を、ぶつけてしまった。
「私…自分のことしか考えられなくて、出会わなければよかっただなんて…ひどい事を…っ。」
一平さんの気持ちなんて考えず。
自分が置いてかれる寂しさしか、考えられなくなっていた。
私を置いて、一人戦場に向かうことが、どれほどの恐怖と不安を生むのか。
「大丈夫。彼はきっと分かってる。」
お母さんは、私を抱き締めながら優しく諭す。