君を忘れない。
あの人にも、いずれ兄のように赤紙が届くのだろうか。
もしかしたら、もう届いているかもしれない。
だとしたら、私のことをどう思っただろう。
彼が消えていった道を見つめながら、私はそんなことを思った。
今から3年も前。
日本が真珠湾を奇襲攻撃したことによって、この戦争が始まった。
ミッドウェー海戦を機に、戦局は一転。
アメリカという大国を相手に、質ではなく、物量戦となった戦局は、悪化する一方だった。
始めこそひた隠しにしていた、日本の敗北が濃厚という噂は、瞬く間に世間に広がった。
それでもまだ、戦争は終わらない。
日本は降伏しなかったのだ。
次から次へと兵隊が集められ、若い人達は戦場へと駆り出されていった。
帰ってくる保証など、どこにもない。
――――1944年、桜月。
太平洋戦争真っ只中の、ここ日本。
それは、月の綺麗な夜でした。
早咲きの桜の木の下で、貴方が私を見つけたのは。