君を忘れない。
私は、「行ってらっしゃい」が言いたい。
たとえ、「お帰りなさい」を言う日が来なくても。
たとえ、「ただいま」を聞く日が来なくても。
お兄ちゃんには言えなかったこの言葉を、今度こそ言いたいと思った。
最愛の人の還りを信じ、ご無事を祈りたい。
―――翌日。
私は駅で、一平さんの姿を探していた。
出征する若者、見送る家族や恋人で、駅は大混雑をまねいていた。
この中から、たった一人を探し出すのは、大変困難なこと。
だけど私は諦めなかった。
諦めきれなかった。
どうしても、伝えたい言葉があるから。
どうか最後に、一目でいいから貴方に会いたい。
丸刈りにした頭に軍服姿。
遠くからでは、区別もつかない。
しかし、その時。