君を忘れない。
「い、一平さん?!」
人混みの向こう、列車に乗り込む一平さんの姿を発見した。
間違うはずがない。
「一平さん…っ!」
出せるだけの声を振り絞った。
「いっ…!」
人に押され揉まれ、声が届かない。
「一平さん!!待って!!」
――――“ジリリリリリ”
ベルが鳴った。
「一平さん…!!」
列車が出発する刻がきた。
私の声は、一平さんに届くことなくかき消された。
一平さんを乗せた列車は、還らざる旅へと出発したのだ。
「一平さん…っ」
私は人目も気にせず、その場にペタンと崩れ落ちた。