君を忘れない。
「聞いていた通りのお方です。」
鉄平さんは、少しだけ表情を緩めた。
「え…」
「兄が出征する前に、話してくれました。貴女のことを。」
あの無口な一平さんが、私のことを。
なんだか照れくさいのだけれど、少し嬉しい。
「彼は、なんて…」
「強いお方だと、言っておりました。」
「強い?」
一平さんに直接言われたことは、一度もない。
「決して弱音を吐かず、芯がしっかりしており、一緒にいると、自分も強くいられるのだと。」
一平さんがそんなことを思っていただなんて。
「そして今日は、兄からの文を喜代さんにお渡しするために、参りました。」
「文…?」
鉄平さんは、胸ポケットから取り出したものを、私に差し出した。
“喜代へ”
綺麗な文字で、そう書かれていた。
「…確かに、一平さんの字です。」