君を忘れない。
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喜代。
この手紙を読む頃、君は元気で居てくれているだろうか。
戦争は終わっているだろうか。
つい先ほど、還らざる任務に着くことが決まり、今こうして机に向かって君への文を書いている。
なにを書こうか考えるうちに、随分と時間だけが過ぎていた。
そこで、別れ際に言えなかった事を、ここで云いたい。
俺にとって君は、最高の女性であったと、自信を持って言える。
それは一生涯、変わることなど無い。
そんな君だから、俺は迷いなく軍に志願することが出来たのだと思う。
本当は、随分と前から考えていたんだ。
いつだったか君に、俺のことは忘れてくれと言ったことがある。
戦争に行くと分かっていたから、ああ言うしかなかった。
しかし結局のところ、俺が忘れることなど出来なかった。
兵隊になんてなるより、軍医になるべきだと。
命を救えるのに、奪う側になるのはおかしいと、そう言われた時、初めて決意が揺らいだ。
自分で決めたことで、誰になにを言われても迷いなどしなかったのに。
いつも君の言葉だけは、真っ直ぐに俺の中に入ってくるのだ。
しかし俺は、潔く征く。
理由は一つ。
この国を守りたい。
君がいるこの国の平和を願う以外、何物でもない。