君を忘れない。
二、桜草。
「喜代、知っているか?」
戦争はと旅立つ兄。
兄と縁側でこうして月を眺めることも、もうしばらく出来なくなるのだ。
どうか、“しばらく”であって。
“永遠に”などと、思いたくない。
「なにを?」
「戦場へ行く者には、“いってらっしゃい”と言ってはいけないんだ。」
戦場へ行く前とは思えないほど、月明かりに照らされた兄の顔は穏やかだった。
「どうして?」
「“いってらっしゃい”は、“おかえりなさい”と対だからだよ。」
「あ…」
「分かるね?戦争に行く兵隊に、“おかえりなさい”を言える保証は、どこにもないからだ。」
そんな…。
だからって、どうして言ってはいけないのだろう。
送り出す方は、“おかえりなさい”と言える日が来ることを信じて、“いってらっしゃい”を口にする。
そうでしょ?