君を忘れない。



鉄平さんの帰った後、一人きりになった居間。



一平さんから届いた手紙を握り締めたまま、涙が溢れた。



こんな立派な人を、日本は失ってしまったのだ。



一平さんだけじゃない。



他にも数え切れないほどの可能性を、この国は爆弾として敵に投げ付けたのだ。



一平さんが出撃してから半月後、終戦。



私は、止められなかった。



駅のホームで、私の声は確かに届いていたのに。



もう少し遅ければ、逝かずに済んだかもしれなかったのに。



神様は意地悪だ。



運命は残酷だ。



それでも、出逢ったことは、間違いなんかではなかった。



出逢わなければ、知らないでいた。



人を愛することの喜びも、悲しみも、痛みさえも。



一平さん。



貴方が命に変えても守りたかったこの国で、私はこれからも生きていきます。



貴方が見たいと言った、この国の平和な姿を、私が目に焼き付けておきます。



桜が咲く度に、貴方を思い出し、微笑むでしょう。



桜が散る度に、貴方を思い出し、涙するでしょう。



永久(とわ)の別れを告げたとしても。



永久に会えない場所に、いってしまったとしても。



永久に忘れることなど、出来ないでしょう。



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