君を忘れない。
だっておかしい。
それじゃまるで、自分は帰ってこないと、言ってるようだ。
お兄ちゃんは、きっと帰ってくる。
「俺が行った後も、しっかりやるんだ。」
帰ってくるなら、そんなこと言わなくていいじゃない。
「父さん母さんを、お前が支えてあげなきゃならなくなるんだぞ。」
私には、無理だよ。
「もういつまでも泣いてちゃ、駄目なんだ。」
私の目に涙が溜まっているのを見て、お兄ちゃんは少しだけ微笑んだ。
どうして私は、なにも出来ないのだろう。
明日戦争へ行く人に、掛ける言葉は何だった?
なにも出来ないし、なにも言えはしない。
それが悔しくて、もどかしくて、悲しい。
「いいか喜代。戦争は人と人の殺し合いだ。そこに情なんてない。そんな非情な場所に、俺は行かなきゃいけない。全てを覚悟して。」
お兄ちゃんは、なにも分かっていない私に現実を教えた。
自分がいなくなる、その前に。
これが、戦争なのだ。
これが、日本が選んだ道なのだ。