君を忘れない。
そして翌日。
お兄ちゃんは、召集されていった。
その瞳に、迷いなどない。
“行きたくない”など、通用しない。
お兄ちゃんは、真っ直ぐにお父さんとお母さんを見つめて、
「いって参ります。」
一言、私たちに背を向けた。
その言葉にお母さんは、目に涙を浮かべ、何度も頷いていた。
孝行ってなに?
帰れるかわからない戦争へ行って、敵と戦う事?
その日、日の丸を掲げた若者たちが、みな軍隊に動員されていった。
私はただ、黙ってその姿を見送った。
“いってらっしゃい”は、言わなかった。
昨日のこともあったけど、それよりもまだ、突っかかるものがある。
喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。
“おかえりなさい”を言える自信が、なかった。