木漏れ日から見詰めて
 最初こそぎこちなかった会話が自然と打ち解けてきた。

「先生、ここわかんないんだけど」

 三角関数の厄介な方程式を指差してできるだけ説明を長引かせ、彼と接する時間を延ばした。

 私はうかれ気分で有頂天。

 雨の日のことだった。

 傘を忘れて小走りで学校を出た。

 帰る生徒の数はまばら。

 私はあの日以来、掃除当番のときはゆっくり時間をかけて最後のひとりになるまで粘る。

 もしかしたら彼とまた2人きりになれるのではと僅かな望みを持っていた。

 今日も駄目だった……でも、毎日会話できているんだから……。

 ささやかな幸せを噛み締めていると後方からクラクションが鳴った。

 その車には見覚えがあり、私は足を止めた。




 
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