木漏れ日から見詰めて
「紺野さん、傘は?」
 窓を開け、彼が助手席まで体を伸ばして尋ねてくる。

「忘れました」
 忘れちゃった……と言いながらペロッと舌でも出せばかわいく見えたかもしれないけど、私はかしこまった返事をしてしまった。

 なにかを期待していたのかもしれない。

「これから会議に出席するために文化会館に行かないといけないんだ。紺野さんの家は近くだよね?」

 担任じゃないのに私の家を知っている彼の気持ちを知りたくなった。

 私は頷くと同時に車へ乗り込んだ。

 焦っているように見えただろうか?

 恥ずかしくて顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。

「最近、勉強がんばってるね」
「はい」

 車の中ではそんな会話しかできなかった。

 家の近所で降ろされたとき、もっと積極的に喋ればよかったと後悔が私の心を痛めつけた。

 メルアドくらい交換できたかもしれないのに……。 
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