木漏れ日から見詰めて
 次の日の朝、私が彼の運転する車に乗ってどこかへ消えたという噂がクラスで広まっていた。

「ねぇ、菱沼先生とどこへ行ったの?」
 噂好きで学校の裏サイトを仕切っているといわれている花岡美紀が目を細くして訊いてきた。

「想像にまかせる」
 私は曖昧な答え方をして美紀を追い払った。

 否定してもどうせ噂は尾ひれをつけて飛び回るだろうし、彼と噂になることはそんなに悪い気はしなかった。

 しかし、その対応は最悪の結果を生んでしまった。

 噂は尾ひれをつけるどころか学校中に感染してみんなの興味を引き出し、悪意ある嘘へと変貌してしまった。

“先生と生徒が学校帰りにラブホテルへ直行!!”

 そんな見出しからはじまる噂がネットに躍って生徒の親からは苦情、教育委員会から圧力が学校にかかった。

 あの日のことをちゃんと調べれば彼が私とラブホテルへ行ったなんて証拠がないことぐらいわかりそうなものなのに学校側は彼を転任させることで責任を取らせ、噂をさっさと葬った。

 

 
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