カナリアのウタ
愛を口ずさんで
中学を卒業した。
卒業式の最後、クラスのみんなは泣いていたけど私は全く泣かなかったし、笑いもしなかった。
思ったのは、(あぁ、卒業するんだな)ぐらいの感情。
別に中学生活に執着するようなものもなかったし、ただ普通のクラスの中で過ごしていたと思う。
浮いているって訳じゃない。それなりに溶け込んでて、まさに調度良い場所に私は居た気がする。いや、実際そうだったんだ。
私のモットーみたいな感じで、浅く広くの人間関係。特に女子はめんどくさいから探りながら関係を保つのもだるかったけどね。
桜も咲ききれていない蕾がぽとりと落ちていた。
写真撮ろうよ!と耳に障る声が鼓膜に届いた。なんとなく駆け足で校舎の前に集まって写真を撮る。
最後だから、なんて泣きながらカメラのシャッターが閉じる女の子。
撮り終わった写真をディスプレイで確認するみんなに混ざって私は私を見つめた。
私がなんだか光で反射していて見えない。
どうでもいいはずだ。これぐらい。
でも、なぜかそれが心につっかえる。
「あれ、なんか香奈の顔見えないね」
「本当だ」
「もう一回撮り直す?」
『いいよ、ほらもう時間だし』
そうだね、と交わされる会話。
私はめんどくさいという理由を武器に、頭からあの写真を消した。
いや、それを思うだけできっと忘れてはいないんだろうけど。
受験合格。
あの苦労は殆ど無駄だった気がする。
出た問題は私が勉強したものより簡単過ぎた。
あの緊張は心臓の寿命を短くする為だけのものように感じる。
私が入学したのは女子が入学しないような機械とか工学系専門高。
女子の人数は3人。男子は381人。
女が居ないなんて好都合なんだろう。
私の幸運に感謝しながら学校へ向かった最中だった。
後ろから声をかけられる。
「ねぇ、君、」
振り返ってみると。
知らない顔。
「愛ってあると思う?」
いきなり。あったことがないのに
そんなことを聞かれた。