私は貴方に、叶わない恋をした。
耳を両手で抑え、目を閉じた。
閉じた目からは、たくさんの涙が溢れ出る。
「…お前の気持ちを知った時、気付かないフリをするのが一番だと思った」
全開の窓から風が入り、先生の髪と作品がなびく。
「俺は結婚してるし…その前に、お前は生徒だからな」
抑えた耳から、かすかに先生の声が聞こえる。
「今の教師と生徒の関係を、崩したくなかった」
聞きたくなくて、ギュッとより強く耳を抑えるが限界がある。
「…けど」
けど?
「距離をとるはずだった補講が、逆効果だったなぁ」
…逆…効果?
強く抑えつけていた手を、ゆっくりと緩める。
「毎日、毎日…準備室に向かう扉に"好き"って告白されたら…誰だって揺らぐよな」
…え?
無造作に腕がさがり、窓際にいる先生を見つめた。
「そのくせ、一度も準備室に来ないんだもんなぁー…そういうとこも…男ならやられる」
何…言って…
目の前にいる先生は、独り言のように喋っている。
「なかなか提出しに来ないから、こっちから行ってみれば…"好き"と"諦めなきゃいけない"気持ちの葛藤で、泣いてるし」
先生は、"ハハ…"と苦笑いした。
「泣きたいのは、俺も一緒だ」