私は貴方に、叶わない恋をした。
外は暑いのに、冷や汗がドッと出た。
ドクン。
ドクン。
どうしよう…もし、ヤスに気付かれていたらー…
「そんな怖い顔しないでよ。俺は誰にも、言うつもりないし」
"よいしょ"と言いながら、ヤスが席を立った。
「不倫なんて、別に悪いことじゃないでしょ?」
ドクン。
"不倫"という言葉が、さらに心臓を加速させた。
「…っ」
ジッと目を見て話すヤスに対し、目が泳いでしまう。
こんな動揺してたら、バレてしまう。
否定しなきゃ…
否定しなきゃ!
「泣きそうにならないでよ。そんなんじゃ、すぐにバレちゃうよ」
ぽんっと優しくヤスの手が、頭を撫でた。
その手が暖かく、ひと粒だけ涙が零れ落ちてしまった。
「じゃあ俺、帰るわ」
「え!?」
「髪染めに」
「あ、そっか…じゃあ、私は…」
特に、問い詰めてくるわけでもないヤス。
その流れで席を立ち上がり、教室に向かおうとした。
「あんたも、一緒に」
「…え?ちょ…」
グイッと手首を捕まれ、ヤスは走りだした。
生徒指導室から出ると、廊下を走った。
「ヤス!」
「学校にいても、嫌なことばっか考えちゃうだろ?だったら…」
「…」
「ぱぁーっと遊ぼーよ」
下駄箱から出て行くとき、数人の先生が叫ぶ声が聞こえた。
「同じ場所にいたら、嫌でも考えちゃうしな」
けど、今はー…
ヤスのキラキラした髪が、私の心も晴らしてくれるような気がした。