私は貴方に、叶わない恋をした。




「はい、何かあったんですか?」

中からそういう声が聞こえ、ドアが開いた。

ドクン!!

深く脈を打ったとき呼吸が、一瞬止まったような気がした。

ヤスの制服の裾を握り締める力も、強くなる。


「・・・お前らー・・」

「沢せんせー、おはようございます」


中から出てきたのは、やっぱり沢先生だった。

美術準備室のドアをノックしたんだから、沢先生が出てくるのが当たり前だけどー・・・心のどこかで、いなければいいと思っていた。

「・・授業はもう始まってるぞ。加藤も、黒髪に染めてから登校しろって言っただろ?」

淡々とした口調で、先生は言った。

「担任に言われて、課題を取りに来たんですよ」

「そうか。なら、職員室に行け。・・・永井」

ドキ。


「・・っ」

名前を呼ばれ返事をしようと思ったが、声が出なかった。
目も合わせられない。


「お前は、教室にすぐ戻れ。今なら、授業欠席にー・・」
「あー、沢せんせー。あれなんですか?」

ヤスが突然、大きな声を出したと思ったら腕をグイッと引っ張られた。

「!」

「おいっ」

先生の横を通りすぎ、ズカズカと準備室の中に入った。










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